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COLUMN 観終わってから読んでください。

演劇集団キャラメルボックス製作総指揮 加藤昌史

初めて企画した「キャラメルボックス アラカルト」の第1号、『太陽の棘』。いかがでしたか?

 「アラカルト」とは、レストランでコース料理ではなくメニュー表から好みのものを一品ずつ注文するお料理のこと、またはそういうお食事方法のこと。まぁ、普段ラーメン屋さんでばっかり食べている僕は常にアラカルトなわけですけれども、「キャラメルボックス」という劇団がお届けしている「キャラメルボックス」というコース公演ではなく、その中に隠し持っている「一品料理」をお見せしていく企画公演のタイトルにしていこう、と思って付けた名前です。
 これまでは「チャレンジシアター」というタイトルでやっていた部分でもありまして、「実はキャラメルボックスってこういうところもあるんだけど、そこは今まであんまりお見せしていないからいきなりやったらびっくりされちゃうかも」というような意味も込めています。
 濃厚な豚骨ラーメンが美味しいと評判のお店が、精魂込めた和風出汁の醤油ラーメンを「限定メニュー」で出してみるような感じ、と思っていただけると幸いです。

 実は、「本公演」と並行して新企画を上演する、という形式、これはそもそも、2011年の地震の後に劇場に来てくださるお客さんが激減したため、それまで通りにやっていては劇団そのもの、ひいては演劇そのものがなくなってしまうのではないか、という根源的な危機感から生まれた発想でした。
 大規模な公演を長期間やってもお客さんが来てくれないのなら、小規模ないろんな方向性の作品をたくさんやることでいろんなお客さんに来てもらえるようにしていってみよう、でも別に劇場を押さえてやるといろいろ大変だから、もともと本公演をやるために押さえてある期間を2公演で分けっこして使っていこう、という「劇場の有効活用」みたいなところもあり。
 その結果、激減したお客さんが増えたか、というとそんなこともなく、むしろベテランのサポーターのみなさんからは「公演が多すぎてお財布がぁっ!!」という悲鳴を聞かされるようになってしまいました。申し訳ございません。

 でも、そんなことを4年間続けてきた成果は、劇団員たちの急成長として現れました。
 公演の数が増えたからと言ってクォリティを落として適当にやることなんてできるわけがないので、一本一本を全力で作るわけですから、公演数が増えた分だけ「経験」が積み重なるスピードが速まってしまったのです。
 僕ら製作部も、「高性能なことをハイスピードでやる」というノウハウを作らざるを得なくなり、そのためにそれまで「これはやるって決まってるから」とやっていたことをバンバン切って「新しいことをやるためにずっとやってきたことをやめちゃう」という選択肢を手に入れることができました。実は「新しいことをやる」よりも「ずっとやってきたことをやめる」ことの方がとても難しく勇気がいるし難しいことなのだなぁ、ということもよくわかりましたけど。

 こういうことに似た経験を、ちょうど20年くらい前にもしたことがありました。
 学生劇団をやっていた仲間で集まってキャラメルボックスを結成し、高田馬場の小劇場で旗揚げをしたキャラメルボックスが、ものすごいスピードでお客さんが増えて「中劇場」に進出した頃のことでした。さすがに、この全力芝居を小劇場で50ステージやり続ける、というのは不可能だろう、と考えて、中劇場なら期間が半分以下で済むから楽になるぞぉー、と考えたわけです。
 が、小劇場では満員でも1ステージ200人くらいのお客さんだったのが、突然700人とかになってしまったわけで、それまでこだわってきたことを全部やろうとしても不可能。しかも舞台上の表現に関してやるべきこともスタッフワークも制作作業も、劇場のキャパシティが2.5倍になっただけで逆に10倍ぐらいに増えてしまったのです。これは計算違いでした。

 が、その時もその逆境を活かして、「劇場が広いからできること」を考えるようになりました。同じ演劇なのに、全く別物。でも、小劇場で培ってきたノウハウはちゃんとキラキラさせたまま保ちつづけてね、と。
 つまり僕たちは、狭いところでやっていたからこそ、広いところも怖くない、と思えたのです。そもそもの精神が「なんにもないからなんでもできる」という、同じ小劇場出身の劇団ショーマの高橋いさをさんの言葉の通りだったものですから。
 その精神があるから、「東北新幹線の中で芝居をやる」という「シアターエクスプレス」も、「東北応援無料ツアー『賢治島探検記』」も、「やろう」と思うことができましたし、やり遂げることもできたのです。

 この2011年からの「突如降ってきた変革期」。僕たちはそれとまだまだ必死で戦っています。演劇なんて衣食住に含まれない「生きていく」ために不可欠な存在ではなく、「心の栄養」に過ぎません。が、この逆境下で戦い続けている劇団員たちの目覚しい成長ぶりには、目を見張るものがあります。

 今公演の初日前日の12月9日に31歳の誕生日を迎えた主演の鍛治本大樹、そしてその兄を演じた、17日の休演日に同じく31歳の誕生日を迎える多田直人。自分が31歳の時にこんなに頼もしかったかというと、絶対にそれはない、と断言できます。

 『太陽の棘』でほさかようさんが散りばめてくれた宮沢賢治さんのきらめくような言葉の数々をあらためて胸のポケットにしまって、僕たちは来年の「結成30周年」というアニバーサリーイヤーに向けて一歩を踏み出します。この舞台できらめいていたみんながはじける瞬間を、来年も楽しみにしていてくださいねっ!!

[2014.12.9. Katoh Masafumi]

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