レインディア・エクスプレス

作・演出 成井豊

物語
 クリスマスイヴの日、山口県下関市に住む朝倉ナオの家に酒井こずえが幼なじみの朝倉ユカリから届いた手紙を持ってやってくる。ユカリはナオの孫で、東京で弟・朝倉拓也と暮らしている。手紙の内容は、2週間前に拓也に起こったある事件についてだった。


 拓也は高校で生物の教師をしている。彼は3年生の担任をしていたが、ある日、自分のクラスの生徒である村上が校舎の屋上から飛び降り自殺をしてしまう。遺書もなく、自殺の理由はまったくわからない。ところが、村上の遺書があるという噂がでてきたのだ。しかも、その遺書は拓也のクラスの生徒である池田永吉が持っているという。拓也は永吉を問いただすが、永吉は「持ってない」の一点張り。言い合いをしているうちに、永吉が拓也を思い余って突き飛ばしてしまう。

 そこへ現れて拓也をかばう謎の男。拓也には見覚えがないが、その男は拓也の名前を知っていた。揉み合ううちに、永吉がその男に怪我をさせてしまい、とりあえず永吉の家へ連れていく。永吉の家はユカリが勤めている花屋。ユカリは謎の男を見て、「どこかで会った気がする。ずっと前に」と言う。するとその男は、自分はユカリの小学校の同級生で、石田だと名乗る。が、そこに現れた騎一郎という男は、彼のことを「北条」と呼んだ。


 手紙を読み終わるこずえ。しかし、こずえが覚えている限り、同級生には石田なんて名前の男はいない。不思議がるこずえに、突然ナオが、「東京へ行こう」と言い出す。ナオは「北条」という男を知っていると言う。


 明治元年、徳川幕府が明治政府に江戸城を明け渡した。明治2年、函館五稜郭に篭城していた幕府の残党も政府軍に降伏。いよいよ五稜郭をも明け渡すことになった前夜、水門から一隻の小船が堀へ出た。その小船には、北条雷太遠山陣八大岡騎一郎の3人の姿があった。彼らは政府軍への降伏を避け、自分たちだけでも最後まで戦おうという意思をもった青年たちだった。ところが、洋上にでたところで大きな竜巻に飲み込まれてしまう。朝、3人は小船の上で目を覚ました。小船は浜に打ち上げられており、彼らは互いの無事を喜んだ。新たな戦いを始めるために江戸を目指す必要があったが、一銭もない彼らはそのまま働くしかなかった。しかし、彼ら自身に異変が生じていた。3人は竜巻に巻き込まれたことで、不老不死になってしまっていたのだ。


 雷太、陣八、騎一郎の3人は、 不老不死の身体を手に入れたことによって全国を漂流することになる。政府軍と最後まで戦おうという意思も、政府要人の寿命や暗殺により果たすことができなくなってしまったのだ。今から60年前、雷太は下関にいた。そこで、漁師をして生計をたてていた。漁師仲間の徳造の女房こそ、朝倉ナオだった。ナオは旅館の娘であったが、徳造との結婚に反対され家を飛び出て徳造と生活をしていた。


ある日、「徳造のことはまかせておけ」とナオを残して、雷太と徳造は漁にでかけた。船は嵐に巻き込まれ、雷太は生き残ったが、徳造は海に消えてしまった。残されたナオが生活に困らないように尽くす雷太に、ナオの心が揺れ始める。ある日、雷太への気持ちを打ち明けようとするナオに、雷太は「下関を出ることになった。何かあったら、必ず助けにくる」と言い残して、雷太は下関を後にした。昭和20年の12月のことだった。


 永吉の行動に異変が感じられるようになった。夏目漱石の「こころ」を読んだり、ベートーベンの「田園」を聴くようになったのだ。いぶかしがる周囲を後目に永吉が遺書を持っているという噂は、自殺をした村上の両親の耳にも入った。村上の両親や校長先生に追いつめられた永吉は「遺書なんか持っていない」と強固に否定をした。永吉は「これは遺書なんかじゃない、手紙なんだ」と告白をはじめた。村上が自殺をする前に書いた手紙を読み始める拓也。

「池田君、毎朝、『おはよう』って言ってくれてありがとう。僕は一度も『おはよう』って言い返さなかった。それなのに、毎朝、『おはよう』って言ってくれてありがとう。三年間通った校舎よ、ありがとう....夏目漱石の『こころ』よ、ありがとう。ベートーベンの『田園』よ、ありがとう」


 村上はひとりぼっちだったのだ。村上には、毎朝「おはよう」と言ってくれる永吉と、後は物しかなかったのだ。そして、そこには両親の名前すらでてこなかった。永吉は、村上の残した多くの「ありがとう」を確かめようとしていたのだ。「最後まで確かめて、それを私たちに話してほしい」と村上の両親は言い残して学校を後にした。


 ナオが学校に到着した。50年ぶりに対面する雷太とナオ。雷太は50年前のまま。ナオはすでに年老いている、が、雷太は「あんたは全然変わっていないよ」と言う。雷太は密かに毎年、下関に遊びに来てはナオの様子を見ていた。そしてナオだけでなく、ナオの孫のユカリや拓也の身に何か起こると度々、姿を見せては約束を守っていたのだ。

「何かあったら、必ず助けにくる」

 そして、雷太、騎一郎、陣八の3人は東京を去った。
 レインディア・エクスプレス。年もとらず、死にもせず、毎年幸せを運び続ける、彼らはトナカイなのだ。


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photograph: Kazunori Ito