---最初にこの話を聞いた時、どのような感想をお持ちになりましたか ?

恩田 昔、私のデビュー作の『六番目の小夜子』(※注 1)を元に「映画の脚本を書かないか」と言われたことがありまして。その時「自分の小説だったら自分で脚本を書きたい」と思って書いてみたんですけど、シナリオというのは、あまりにも小説とは作法が違うので挫折したことがあったんです。その話を脚本を書いている友達の何人かにしたら「戯曲ならシナリオとは全然違うから、戯曲は戯曲で書いてみたらいいんじゃない」と言われたんですね。もともと戯曲を読むのが好きだったので、いつか書いてみたいと思っていたんです。今回お話をいただいた時に、もしこの機会を逃したら当分脚本を書く機会はないだろうと思ったんですね。

もちろん、スケジュールもきついし、実際に書けるかは別の問題なんですけど(笑)。「人が喋るセリフ」ということの見当がつかなかったので、不安材料はいっぱいあったのですが、キャラメルボックスさんは、以前、お芝居をテーマにした『チョコレートコスモス』(※注 2)という小説を書く時に稽古場を何度か取材させていただいているので、気心が知れているというか、どんな感じのところか知っていたので、「いつか書きたい」と思っていた戯曲を書くタイミングとしてはベストなのではないかと。

---恩田さんファンは、きっといつか演劇に手を出されるのではないかと予想されていたと思うのですが、実際にこうして発表されてみて周りの反応はどうですか?

恩田  編集者のみんなの第一声が「間に合うのぉーっ?」「大丈夫なのぉーっ?」って、「芝居は初日があるんだよぉー !!」とか言われて。みんな第一声がそれだったってのが、恐ろしいですね。

---みなさん、やはり演劇をやられるんじゃないかと思われていたのでしょうか?


恩田  そうですね。あんまり驚かなかったっていうか。そっちは全然驚かれなかったんですけど…






--- 問題は、締切ですね(笑)。それは勝算ありという感じで…

恩田  そうですね(笑)。

---岡田達也からは、小劇場で少人数のワンシチュエーションの会話劇をやりたいというリクエストでしたが、 恩田さんご自身は、どのような作品にしたいですか ?

恩田 私も密室劇が好きなので、そういう意味では一致したというか。一幕もので、あまり動き回ったり装置があるものではなくて、密室劇がいいなと。

---恩田さんは常にタイトルのストックをお持ちだということをお聞きしたのですが、 『猫と針』というタイトルは、小説の中で使おうと思われていたものですか?それとも演劇をいつか書こうとストックしていたものですか?

恩田  小説でも使えるなと思っていたタイトルもあったんですが、そこから戯曲っぽいタイトルっていうのをいくつか考えてて、それを岡田さんに選んでもらったんですけど。『猫と針』で即答でした(笑)。あれは本当におもしろかったですね。「じゃ、『猫と針』で」って、一言で。「どうして?」って訊いたら、「いや、理由はないですよ」って言われました(笑)。

---設定など、話せる範囲で内容を教えていただけますか。

恩田 坂口さんが「喪服を着て話しているイメージが浮かんだ」っていうのを聞いたのと、タランティーノの『レザボア・ドッグス』の冒頭で、みんながいきなりテーブル囲んでうだうだ始まる、あのオープニングはかっこいいよねって話していて。そこから「じゃあ、葬式帰りの男女 5人」という設定になったんです。名字はみんな平凡な、どこにでもいる ような 名前にしようかなと。なんとなく、無国籍なもので、かつ、シンプルな話をやりたいなと思っていて。『猫と針』もどこの国でも共通で無国籍かな、と。

---キャッチコピーの「人はその場にいない人の話をする」が、作品の中心になってくると思うんですけど。

恩田 たまたま去年、『夜のピクニック』(※注 3)が映画化されたのですが、あれは私の母校が舞台になっていたんです。それが映画化されたということで、私の同級生たちが映画でボランティアをやってくれたんです。久々に集まって、同窓会的なことをやったんですけど、その時に思ったの。誰かが席を立つと、「今、実はあいつが何かやってて……」とか「あの人は別れたんだよ」みたいに、人って人がいなくなると、その人の話をするんだなーって、すごく思ったんです。それが印象的だった。ゴシップって、会話のほとんどを占めているじゃないですか。それって潜在的な欲求というか、ある種のコミュニケーションツールになってるので、それってなんかおもしろいなと思ったんです。噂することによって、コミュニケーションをとっていっている。ゴシップもコミュニケーションになっているんだなって思ったんです。例えばお葬式帰りだとすると、亡くなった人は何も弁明できないので、いくらでも無責任な話ができる。特に、親族でもない、距離感のあるお葬式だったら余計に。で、『猫と針』は「葬式帰りに、その場にいない人の話をする」話だと思った。

---今回、ビジュアルワークを鈴木成一さんにお願いして、打合せの段階で「不穏な感じで」とリクエストされましたが、実際にこうやってあがってきたものはイメージ通りでしたか?

恩田 イメージ通りでしたね。

---逆にこのビジュアルからインスパイアされたものはありますか?

恩田 ありますね。それはありますね、ロゴとかね。

---恩田さんの作品は、演劇を題材にされたものもありますが、恩田さんの演劇体験というのはいつ頃ですか?

恩田 学芸会くらいで、昔は全然興味なかったですね。お芝居というより、女優さん、というか、映画で『サンセット大通り』とか『女優志願』とか、ああいうのを見て、なんかそういう因果な商売がこの世にはあるんだなぁというのがあって。あとは、やっぱりあれですね、『ガラスの仮面』。

---キャラメルボックスに取材にこられたときも、役者に興味があっていらっしゃいましたよね ?! 実際に『中庭の出来事』(※ 注4 )なども書かれたりして、恩田さんの中で「役者ってもしかしてこんな感じ !?」というイメージはありますか?

恩田 ますますわからなくなりました(笑)。あれだけのセリフを覚えられるというのがよくわからないですね、未だに。全然脳のツクリが違うなぁと思いますし、おもしろいなぁーって思いますね。

---今回、『中庭の出来事』にあるような長ゼリフはありますか?

恩田 あー、あるかも(笑)。大丈夫でしょ?みんな 1ページくらい(笑)。

---でも、あれは長いですよね !?

恩田 やっぱり(笑) !? あれ、すっごく長いです。これは大変だなっていうくらい。あれは小説としてのセリフだから長いんですよ。芝居でやれって言ったら、やでしょうね(笑)。

---恩田さんは戯曲を読むのがお好きだそうですが、実際にどんな戯曲を読まれますか?

恩田 月並みですが、シェイクスピアとか。あと、テネシー・ウィリアムズが好きですね。三島由紀夫も好きです。

---『チョコレートコスモス』を執筆されるときに、いろんな劇団を観に行かれたと思うのですが、どこか印象に残るところはありましたか?

恩田 わりと脚本目当てで観てたものが多いので、やっぱりここ数年観ていてショックを受けたのは、永井愛さんと、坂手洋二さんですね。

---それは脚本で、ですか?

恩田 本の構成ですね。もちろん役者さんも上手なんですけど。お二人とも社会性のある話を書いていらっしゃるんですけど、永井さんの社会性とエンターテインメント性との折り合いの付け方、あれはすごい。坂手さんはもうちょっと違う感じで『屋根裏』とか、『だるまさんがころんだ』とか、テーマはすごく重いものでも、見せ方が面白い。オムニバスで、いろんなふうに見せられて、とてもインパクトがありました。


---実際に戯曲を書かれてみて、小説であれば、ある意味、恩田さんの演出のもとに全ての世界があるじゃないですか。戯曲は、演出家や役者にゆだねる部分があると思いますが、今、執筆されていて気を使われているところはありますか?

恩田 そうですね…。この間、横内さんの話を聞いて思ったのは、かなりどうとでもとれるようなものを書きたいっていうか、どうとでも深読みできる、観客も役者も深読みできるものを書きたい。だから、その解釈次第でどうとでもころぶようなセリフを書きたいなとは思ってます。それが戯曲の醍醐味だと思うので、やっぱどうとでもとれるようなセリフを…そういうものを、今は書きたいなぁとは思ってます。

---今回の公演を演出の横内さんは、キャラメルボックスの役者が出るので、キャラメルボックスでなくなることはないだろうけど、ちょっといつもと違うっていうことで、“塩キャラメル”という形で表現されていますが、恩田さんが表現されると?

恩田 裏キャラメル(笑)!裏キャラで。裏か、黒か……黒キャラメル(笑)。

---東京はもちろん、福岡公演もあるので、福岡のお客さんに見ていただけるというのは、どうですか?

恩田 嬉しいですね。食べ物もおいしいし、知り合いもいるし(笑)。福岡はすごく芸能の盛んな都市で、ミュージシャンはいっぱい輩出してるし。そういうところなので、また、そういうところで見てもらえるというのはすごく楽しみです。お客さんも熱そうな気がしますしね。

---最後に、今回、キャラメルボックスの作品だというふうにいらっしゃる方もいれば、恩田さんの作品だということでいらっしゃる方もいて、客席でのコラボレーションがあるのかなぁと思うのですが、お客さんに対してのメッセージはありますか?

恩田 そうですね。ふらっときてもらえるほうが嬉しいというか、なんかおもしろそうな芝居だと思ってきてもらえたら嬉しいし、大人の人に見てもらえれば嬉しいし。岡田さんのファンの方がいらっしゃるのであれば、いつもと違う彼をご覧になってほしいですね(笑)。お客さんにお任せします。


※注1 『六番目の小夜子』……恩田陸のデビュー作。 2000年にNHKでドラマ化。
※注2 『チョコレートコスモス』……二人の少女が繰り広げる華麗で激しい演劇バトルを描いた作品。
※注3 『夜のピクニック』……第 2回本屋大賞・第26回吉川英治文学新人賞を受賞した永遠の青春小説。2006年に映画化。
※注4 『中庭の出来事』……小説の中に戯曲がまるごと入った作品。 第 20回山本周五郎賞を受賞。

 
     

恩田陸(おんだりく)

1964年10月25日 宮城県出身

1991年『六番目の小夜子』でデビュー。郷愁的なファンタジーやSF、ミステリーなど、ジャンルに囚われず数多くの作品を発表し、多くの読者を魅了する。

2005年『夜のピクニック』で第2回本屋大賞・第26回吉川英治文学新人賞を受賞。2006年『ユージニア』で日本推理作家協会賞受賞。2007年 『中庭の出来事』 第 20回山本周五郎賞を受賞。著作のテレビドラマ化・映画化も多く、2006年に『夜のピクニック』が映画化され、話題になる。今回が初めて戯曲への挑戦となる。

◆主な著書

『光の帝国』『三月は深き紅の淵を』『ロミオとロミオは永遠に』『上と外』『蒲公英草紙 常野物語』『チョコレートコスモス』『中庭の出来事』 他多数



 
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