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観終わってから読んでください。

演劇集団キャラメルボックス 製作総指揮 加藤昌史

『涙を数える』、いかがでしたか?どなたからも指摘されたことがないので自分で明かしますと、『涙を数える』のチラシの隅には「Where is my ”TRUTH”?」、『TRUTH』のチラシには「Where is your ”TRUTH”?」と書かれています。この2作品は、実はそういう関係があるということを、まずお知らせしておきます。さて。1999年7月、キャラメルボックスは『TRUTH』という幕末時代劇を発表しました。そしてその6年後の2005年、 メインキャストは変えずに再演。その作品に出てきたのが、今回の主人公「長谷川鏡吾」でした。その再演から9年後の今年、キャストを一新してその作品を上演するにあたって企画したのが、この『涙を数える』。つまり、15年前に書かれた『TRUTH』の当時人物の9年前が『涙を数える』、という頭がこんがらがってしまいそうなお話なのでした。作家の二人にはあえて確認していないのですが、9年ぶりに『TRUTH』を上演するので「鏡吾の若い頃」の設定を9年前にしたんじゃないかな、と思います。

みなさんの「9年」という年月はどのくらいのものでしょうか。今から9年前の2005年は、僕からするとついこの間のように思えますが、ハタチの人は小学生でしたし、中学生は幼稚園や保育園に通っていたわけで。十代の頃の「9年」はとてつもなく早くしかし長く感じるわけですが、みなさんの「この9年」は?実は、スマートフォンの「誕生」は諸説あるものの、iPhoneが発売されたのが2007年。なんと、今や電車の中でほとんどの人が使っているスマホは、9年前にはほぼ存在していなかったのです。しかも、今ではあたりまえにみんなか行っている「音楽ダウンロードサービス」も、その先駆けである「iTunes Music Store」のスタートは2005年。2001年に誕生した携帯音楽プレイヤー「iPod」には、みんなCDから自分で読み込んで聴いていたのです。ゲーム機で言えば、PSPとニンテンドーDSの誕生が2004年。そして驚くべきは、テレビ。2005年当時は、販売されていたテレビの約半数が、なんとまだ「ブラウン管」だったのです。もはや、十代の人たちの中にはブラウン管のテレビなんて見たことがない、という人もいらっしゃるのではないでしょうか。つまり、今「あたりまえ」のものが、9年前にはまだ無かったり、「夢」のものだったり、もしくは普及していなかったりしていた、そして9年前にあたりまえだったものが今は無かったりする、ということ。「子供の頃は1年が無茶苦茶長く感じたなぁ」と自分も含めて大人の人はよく言いますが、実は大人の世界の「9年」もとんでもなく変化してきている、ということですね。今回の物語の中で採り上げられている「幕末」という時代。長く続いた徳川家の「江戸幕府」の社会に、黒船が現れたところから時代が動きます。黒船来航が1853年、明治新政府の樹立が1868年。つまり、約15年間で、一気に「ちょんまげ」から「短髪」に変わり、武士という「身分」そのものが無くなるまでに時代を動かすことが起こった、つまり「昔」と「今」の境目がここにあったのです。でも当然、その時代を生きていた鏡吾たち(←フィクションの人物ですが)は、ほんの10数年後にちょんまげを切らなければいけなくなったり、刀を持っていてはいけなくなったりすることは想像していなかったはず。

つまり、僕たちが今「あたりまえ」だと思っていることも、9年後、15年後にはそうではなくなっている可能性がある、どころか、おそらくそうなっていなくてはおかしい、ということなのでは無いかと思うのです。先が見えない時代、と言われたのが1990年代のバブル崩壊以降。しかし、とんでもなく景気が良くない時代であるにも関わらず、いや、だからこそ、ちゃんと時代は動き、新しいものが生まれ、確実に便利で効率的に変化してきたというわけです。だから。今僕たちがすべきことは、足下のことや目の前のことに対する不満や不安に押しつぶされるのではなく、10年後、15年後にどうなっていたいか、どうしていたいか、というヴィジョンを明確に持って今を生きることなのだと思うのです。鏡吾は、『涙を数える』の事件の後、いろんなことがあって9年後の『TRUTH』の時代にはまたいろんなことをします。『TRUTH』では、見方によっては鏡吾が悪役に見えてしまう可能性があります。しかし、『涙を数える』をご覧になったあなたなら、ちゃんと『TRUTH』を観た後も鏡吾のそのまた9年後を楽しみにできる、と思うのです。

 今回のゲスト、辻本祐樹さんは1985年1月12日生まれ、池岡亮介さんは1993年9月3日生まれ。期せずして、ほぼ9歳違いですね。また9年後に(←と言わずもっと)キャラメルボックスで共演していただいたらどんな感じになるのか見てみたい、と思います。素敵な二人との出会いができた今公演。東京だけで終ってしまうのが、本当に残念ですが、いっぱい残念なことがあるのが生のエンターテインメントである演劇の特性です。しかし今では、2005年にできたYouTubeや、2006年にできたニコニコ動画があります。演劇の新しい可能性を、僕たちは探り続けていきます。9年後、15年後にどうなっているのか。僕の夢は、日本中でキャラメルボックスを生で上演していることです。いつかまた、劇場でお目にかかりましょうっ!!

[2014.7.27. Katoh Masafumi]

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