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観終わってから読んでください【ネタバレ注意】

演劇集団キャラメルボックス 製作総指揮 加藤昌史

キャラメルボックス版『鍵泥棒のメソッド』、いかがでしたでしょうか。
すでに映画『鍵泥棒のメソッド』を見てからこの舞台をご覧になった方と、映画はまだ見ていなくて今日ここにいらっしゃった方と、両方の感想を是非おうかがいしたいので、パンフレットに挟み込んであるアンケート用紙か、キャラメルボックス『鍵泥棒のメソッド』ホームページにあるWebアンケートから、是非一言でもご意見をお寄せくださいっ!!

この舞台の原作である映画『鍵泥棒のメソッド』は、内田けんじ監督が自分で書き下ろした脚本を元に、堺雅人さん、香川照之さん、広末涼子さん、荒川良々さんたちが出演して紡ぎ上げられた作品です。
堺さんは、早稲田大学演劇研究会という、同じ早稲田出身とは言え僕らとは違う本流のところ出身で、学生時代からその名前は演劇界には轟いていたのですが、2004年にNHKの『新選組!』に出演されたあたりからビッグネームになり、ここ数年の活躍はもうみなさんご存知の通り。香川さんと広末さんは……もういいですよねっ?!
そんな今の日本のトップの俳優さんたちによって創られた映画だったのですが、トップの俳優さんじゃなきゃこの作品で観客を楽しませることはできなかったと思います。
というのも、まず主人公の桜井。売れない舞台役者で、失恋して自殺を試みようとしても失敗して風呂屋でロッカーの鍵をすり替えるという卑怯なことをしてしまうほどに情けない男で、情けない割りにそのすり替えた人のマンションに行っちゃって室内を探検しちゃって大金を使っちゃってかかってきた電話に出ちゃってその仕事も受けちゃって……。もう、度胸があるんだか無いんだかよくわからないその場しのぎの行動をした上に、その後コンドウの記憶が戻ってからも、意外に前向きに命の危険がありそうな現場に突入していき、結果大活躍してしまう、という、短期間での心境の変化の激しさと無謀で雑なのに結果が出てしまう行動の破天荒さは、まさに堺さんのはまり役としか言いようがありません。
そのうえ、裏の世界の人たちにも最強の殺し屋として恐れられているのに実は便利屋で、なおかつ大金を稼いでいたというコンドウ。高知能で計算が緻密で先を読む力があり、実はその仕事を完遂するために役者じゃないのにすでに卓越した「演技力」を体得済みだった、という、「演じている役割の人物が別の役割を演じるところを演じる」という二重三重のマスクを被ることまでできてしまう人物。これまた、香川さんだからこそ信じられた役で、コンドウという人物の変化や行動を見ているだけでハラハラドキドキさせてもらえて、またまた香川さんが好きになった映画でした。
で、そんなお二人が演じた役を、キャラメルボックスのまさに主軸でありここ10年で最も主役をやってきた男たちである岡田達也・畑中智行・阿部丈二・多田直人がダブルキャストで演じる、というこの企画。
ただでさえ難しい役なのに、今回は映画じゃなくて舞台なので「編集」が効かない状態でやる、ということで、本人たちも並々ならぬ緊張があった模様です。
ただ。今回は「小説原作」じゃなくて「映画原作」だったことで、稽古場では今までに無いアプローチをみんなが行っているように見えました。つまり、全く恐れることなく、堺さんや香川さんの演技を勉強して参考にしてしまう、ということ。これは、今までキャラメルボックスがやってきた「再演」の手法で、過去に上演した作品を再演する時に完全にゼロから作り直すのではなく、過去のものは過去のものでしっかり踏まえた上でそこからまた作っていく、というやり方。
よく世の中の「原作もの」にありがちなアプローチは、「原作を踏まえつつ新しいものを」と言いつつ全く踏まえずに、新しく作る人が「個性」を主張しようとして全然違うことをしてしまおうとして原作ファンをがっかりさせる、というパターン。ところが、キャラメルボックスの場合は、その「原作」のネームバリューとかそういったものを利用して自分たちがメジャーになろうとか大儲けしてやろうとかそういう邪念ではなく「おもしろいからウチでもやろうっ!!」という無邪気な姿勢でやっているものですから、原作で良かったところや好きだったところはどんどん採り入れて、「あっ、マネしてる」って言われても「あっ、わかりましたっ?!似てましたかっ?!」とむしろ喜んじゃうくらいの作り方をしているのです。
これだと、「芸術」としては評価されないのでしょうけれども、原作の映画をご覧になった方が違和感を感じないというか、むしろ「あっ、アレ、一緒だっ!!」と、心の中の原作の記憶が甦ってこちょばゆいというか、あの桜井が、あのコンドウが、目の前で動いてるぅぅぅっ、という不思議な感覚を味わっていただけるのではないかなぁ、と思います。
それはまた逆も有りで、この舞台をご覧になった後に映画をご覧いただくと、笑いどころが増えると申しますか、この舞台は映画『鍵泥棒のメソッド』ファンが徹底的にオマージュして作っているので自然に映画のガイドにもなっているため、普通に映画を見るのの数倍楽しんでいただけると思いますし、細かいところを何度も見たくなってしまうのではないかと思います。そして、映画を見終わった後は再びこの舞台を観たくなり……!!
……ちなみに、今回のダブルキャスト。今日のキャスト表の一番左端をご覧いただくと、主役の3人がひっくり返って違う小さな、しかし大切な役をやっていた、ということにお気づきいただけるかと思います。これをキャラメルボックスでは「クロスキャスト」と呼んでいるのですが、もう一つのキャストだとこれが入れ替わるわけですから、また楽しめますよぉ……(←悪魔の囁き)。

今回の作品では、「盗む」と「演じる」という行為が物語に大きな影響を及ぼしています。 人の物を盗むという行為は犯罪です。そして人の権利を盗むという行為も。しかし、人の作り上げた芸術という大いなる遺産を受け取り、それを吸収し、発展させていく行為は、「真似る」を越えて「学ぶ」ことであると思います。今、よく「パクる」とか「インスパイアする」なんていう言葉が使われますが、それらの全てが悪いことだとは僕は思っていません。権利者に敬意を表して、堂々と真似をし、そこに「自分」という名のオリジナリティを加えて、似たようで違う新しいものを作り上げていく、というやり方で芸術は発展し継続してきたわけですから。
それを、ゼロから創り出そうとした人の話は……秋に上演する『無伴奏ソナタ』で、どうぞ!!
と書いておきながら、次回公演は夏。1999年と2005年に、岡田達也と、当時は劇団員だった上川隆也が激闘を繰り広げた幕末青春群像時代劇『TRUTH』が、キャストを一新して帰ってきます。これこそ、3回目の上演ですし上演当時にまだ劇団にいなかったメンバーが多数参加しますので、「あの『TRUTH』」ではない「これが『TRUTH』だ」という舞台をお届けできると思います。ご期待ください。
そして、昨年のサマーツアー『雨と夢のあとに』の時にはそのスピンオフ作品『ずっと二人で歩いてきた』を並行上演いたしましたが、今年もなんと『TRUTH』の登場人物「長谷川鏡吾」の若い頃を描く新作『涙を数える』を東京だけですが、並行上演。辻本祐樹君と池岡亮介君という活きの良い若手俳優をゲストに迎え、西川浩幸・岡田達也・坂口理恵というベテラン組、そして多田直人と原田樹里が迎え撃ちます。
その直後には、大学の劇団の先輩が社長を務めるワタナベエンターテインメントによる俳優集団「D-BOYS」の10周年記念公演を成井豊が作・演出。それがまた時代劇で、こちらはなんとキャラメルボックスの代表作『風を継ぐ者』シリーズの新作『駆けぬける風のように』。今度の舞台は、まさに幕末、慶応三年だそうです。
……これから秋までお腹いっぱいなキャラメルボックス三昧な日々が続きますっ!!しかしっ!!それはまだ、来年の劇団結成30周年への布石にしか過ぎないのです……っっっっっ!!

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