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ソラコたちに追いついたレミは、タクシーを捕まえた。
3人が乗り込み、全速力で走り出す。レミが振り返ると、後ろからシラキ社長と部下たちの乗った、2台のタクシーが追ってくるのが見えた。
後ろの2台を振り切ってほしいとレミが頼むと、タクシーの運転手は快く引き受けてくれた。
3台のカーチェイスが始まる。そこへ、追ってきたパパとケンジ先生の前を、3台の車が通り過ぎる。レミたちに気付いたパパとケンジ先生は、すぐに追いかけようとするが、タクシーが捕まらない。仕方なく2人は走って追いかける。
レミたちの乗ったタクシーは、1時間ほど走って、街の外れで止まった。
そこは、レミが昼間ケンジ先生と遊んだ、川だった。昼間、ケンジ先生がここではしゃいでいた様子を、レミが話すと、ソラコはケンジ先生がアンドロイドだなんて、とても信じられないと言う。
「だって、シラキさんやクロサキさんなんかより、ずっと人間らしいんだもん。」
それを聞いていたトシコは、自分のことを考えてみた。自分もアンドロイドのように、休まずに動き続けていた。そんな自分より、ケンジ先生の方がずっと人間らしいとトシコは思った。

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3人が話をしていると、背後からシラキ社長がやって来た。
レミはトシコを逃がそうとするが、シラキ社長の部下たちが逃げ道をふさいでいる。
レミとソラコは捕まり、シラキ社長がトシコにホテルへ戻るよう詰め寄る。トシコはさっきとは別人のように、素直に戻ることを承諾した。
「だって、私の身体は私だけのものじゃないんだから。私はアンドロイドなんだから。」
そこへ、背後から忍び寄っていたパパとケンジ先生が、部下たちに飛び掛かる。
ケンジ先生は部下の一人を捕まえ、人質に取り、形勢は逆転した。

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3人を連れて帰ろうとするケンジ先生に、シラキ社長は、トシコだけは置いていくように言うが、ケンジ先生は聞き入れない。ケンジ先生は、トシコを短くても一カ月は自然の中で休ませるべきだと主張する。トシコはときどき目の前が赤紫一色になると言っていた。それは、赤紫の補色である緑色が足りないからだとケンジ先生は説明する。
「人間はいろいろな色からできています。どれか一つが欠けても、人間はダメになるんです。一つでも色が欠けたら、白にはならない。灰色に濁るんです。」
トシコの目眩を治すためには自然の中で休むしかない。
しかし、スケジュールの詰まっているトシコにそんな暇はないと言って、シラキ社長は取り合わない。
事は一刻を争うと考えたケンジ先生は、トシコを連れていこうとする。
が、シラキ社長の部下たちがケンジ先生に襲いかかり、ケンジ先生は人質に取っていた部下の一人を放してしまう。うずくまるケンジ先生に皆が駆け寄る。ケンジ先生の身体を心配して、もうやめてほしいと言うレミ。ケンジ先生がここまで頑張れるのは、先生が生徒のやりたいことを手伝うのは当たり前だと考えていたからだった。
「でも、私が生徒になったのは、昨日じゃない。まだ一日しか経ってないじゃない。」
そう言うレミにケンジ先生は言った。
「あなたにとっては一日でも、私にとっては50年なんです。」
ケンジ先生は、アンドロイドの教師が廃止になってからの50年間、教師をやらせてもらえずにいた。
10年間倉庫に入れられた後、天文台、鉱山、農園などに売られ、そして古道具屋に辿り着いた。ケンジ先生は生徒に会うことを待ち望んで、さらに10年間古道具屋で過ごし、やっとおばあちゃんがケンジ先生を買ってくれた。つまり、レミはケンジ先生にとって50年ぶりの生徒なのだ。
「私には生徒という色が足りない。だから、必死で色を補充しているのかもしれませんね。」
そう言って、立ち上がったケンジ先生に、シラキ社長の部下が再び殴りかかる。

と、そこにパパが止めに入った。何度倒されて立ち上がるケンジ先生の姿が、パパに勇気を与えたのだ。
パパが空手の構えを取ると、部下の3人が飛び掛かる。が、パパは次々と3人を倒した。
しかし、もう一人、一番の使い手のクロサキが残っている。2人が構える。激しい撃ち合い。クロサキのパンチでパパがよろめく。が、パパの空手チョップで勝負は決まった。皆がパパに駆け寄る。
パパはまだ緊張が解けていない様子で、汗びっしょりだったが、嬉しそうだ。
部下を全員倒され、一人残ったシラキ社長は、それでもトシコを説得しようとする。

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今日の仕事はキャンセルできたが、明日のライブまでキャンセルしたら、トシコは歌手をやめるしかなくなってしまう。
「私はあなたに歌ってほしい。あなたの歌を聞きたがっている人が、一人でもいる限り。私もその一人なのよ。」
トシコはシラキ社長の本当の気持ちを聞いて、それなら今晩一晩だけ休みがほしいと頼む。
それを聞いたソラコは、一晩だけでは足りない、最低一カ月は休むべきだと言う。
が、トシコはそれができないことは分かっている。それなら、夜空を見上げればいい。
「そうすれば、緑がいっぱい見えるから。そうでしょう、ケンジ先生?」
トシコは、レミの家で聞いたケンジ先生の言葉を思い出した。
「私たちの頭の上に広がっているのは、夜空じゃない。銀河という名の川が流れている、草原なんです。」
満天の星空を見上げた皆の目には、草原が広がっていた。


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written by Etsuko Shirasaka
photograph: Kazunori Itoh
MIDI: Chikako Makita