選曲担当・加藤昌史、ZABADAK吉良知彦とちょっと語る!!

1996年7月18日 都内某音楽スタジオにて

加藤 あ、そうだ。『ケンジ先生』の方は、チラシとかに「音楽・ZABADAK」って書 いてあるんですけど、こっちはどこにも書いてないんですよ。「なんでZABADAKの対 談が載ってるの?」と思ってる人がけっこういると思いますよ。
吉良 そうですよね。
加藤 というのも、『十二月の午後河原で僕は夏の風景を思い出していた』とか『賢 治の幻燈』を聴かせていただいて、「もう、『ケンジ先生』バッチリだぜいっ!」と 思ってオリジナルをお願いしたんですが、その後過去の膨大な楽曲を聴きまくってい るうちに「あれ?この人、『風を継ぐ者』の方がほんとなんちゃう?」と思うように なって。『十二月〜』とかと、『桜』や『遠い音楽』とかと、なんか回路違うんですか?
吉良 おなじですよー。
加藤 そーかー。でも、両方見てくださった人が、「え?音楽同じ人だったの?」と 思っちゃうような使い方をさせていただきたいと思ってます。
吉良 ですね。やりましょう。

加藤 ところで、ZABADAK、10年ですか。
吉良 新譜のカバーに10年とか書いちゃったから、無理やり10年にしました (笑)。
加藤 でもアルバム「decade」の時点で10年だったんじゃないんですか?
吉良 それはバンドが出来てからということで。こじつけなんですよ。
加藤 最初は3人だったんですよね。 86年っていうとちょうどキャラメルボックス も3月に旗揚げ公演をしてるんですよ。
吉良 あ、そうだったんですか。
加藤 で、全部のアルバムを追って聞いてて思ったんですけど、吉良さんの音楽って ジャンル分けできないですよね。レコード会社の人とか評論家の人とかしたがります けど。
吉良 したがるしたがる。
加藤 遊佐美森さんとか小川美潮さんとかのへんと、いっしょにされがちなんじゃな いですか?
吉良 ネオアコ陣営ですね。
加藤 初期の頃って上野さんのイメージってのが押し出されちゃってるから、吉良さ んのロックスピリットがジャケットとか、表に出てきていないですよね。曲聞いてる とそれがありありとわかっちゃう。
吉良 へへへ。

加藤 吉良さんの音楽の根っこっていうのは、どこにあるんですか?
吉良 親父が好きだったクラシックを、ものごごろつきかけの幼稚園児の頃に薄ぼん やり聞いていて、それがドボルザークだったりチャイコフスキーだったり、そんなメ ロディアスなものを吸収してるんで、メロディ書くときはそんなものが根っこにある 気がしますね。 
加藤 なんか懐かしいんですよね、吉良さんのメロディって。
吉良 中学・高校で音楽始めて、レッドツェッペリンだ、ビートルズだって聞き始め たものも多大な影響を受けてるんだろうけど、もっとなんか薄ぼんやりした記憶に刷 り込まれてるものの方が大きいような気がしますね。
加藤 なんかね、うちの成井が『賢治の幻燈』を聞いて、アラビアっぽいって言うん ですよ。僕は、非常に日本くさいって思ったんですけど。
吉良 トラッドに通じるものってすごいアジア的であり日本的ですよね。ヨーロッパ のトラディショナル音楽、アイリッシュとかスパニッシュとか、そういうのに通じる 部分ていうのが、すごいアジア的だったりするんじゃないですか、『スカボロフェア 』だってそうだし。なんとなく俺たち日本人にグッと来るメロディの多くが、そうい うもので出来上がってたりしますからね、あとから分析するとね(笑)。

加藤 吉良さん自身は、この辺こうやれば当たるぜ、って作曲するわけじゃないです よね(笑)。湧き出てくるメロディがそういうメロディなんですよね。
吉良 今回のデモテープの後半2曲なんてまさしくそうですよね。
加藤 あ、これを読んでいる皆さん、たった今、『ケンジ先生』のデモテープをいた だいたところなんですっ!!これは……高く売れるぜ(笑)!
吉良 これは、もう、成井さんの書いた歌詞のなせるわざですね。この間、台本をも らった打ち合わせの時に、すでに頭の中で鳴ってましたから。
加藤 曲が浮かぶ時ってのは、どんな感じなんですか?
吉良 リアルタイムですね、詞が先のとき一番いい感じで描けるのは。それやってる 分には何のストレスもなくて幸せなんですよね、そんなことあんまりないですけど ( 笑)。
加藤 僕は10年ずっと選曲やってきてますけど、自分のメロディっていうのを持って ないんですよ。台本読んでて、過去聞いた曲は浮かんできますけど。だから、ミュー ジシャンの頭ん中見てみたいって思うんですけどね。
吉良 豆腐みたいですよ、ぐちゃぐちゃって (笑)。

加藤 ところで、吉良さんって、あえて「売れ線」はずしてるってことないですか?
吉良 いえいえ、そんなことないんですけど(笑)
加藤 「ここでバスドラ一発入れたら売れる曲になってっちゃうのに、それをいれな い」ってところがないですか?
吉良 そんな……簡単なものでもないし、その売れ線ってものが、いいものはいいけ ど悪いものは悪いでしょ。スピッツとかミスチルとか、売れたのはうれしいよね。で も、僕自身売れてないし、どうすれば売れるってわからないし、あんまりそこに目を 向けちゃうと身動きとれなくなっちゃうから……。
加藤 今度の新曲の『Tears』なんかも、小室哲哉さんとかが手掛けたら、そのまま 大ヒット間違いなしって感じですけど、そういうふうにならないところが素敵なんで すよ、僕にとって。
吉良 あー、どかーんとね。
加藤 吉良さんの曲って「欠落感」があるんですよ。だから、聞いててすごいせつな くなるんです。で、キャラメルって観ていただいたからわかるかと思うんですけど、 特に目新しいことってしてないんですよ。ただ、普遍的なことをしたいと思ってるん ですね。そんななかで、吉良さんのやってきた音楽を聞いてると、すごく身近に感じ るんですよ。
吉良 そうですね。僕自身、何か目新しいことを探してるわけじゃなくて、いいメロ ディっていう、普遍的な、昔からずっと受け継がれてる流れの一部に乗っていけたら 幸せだなと思ってるんで。

加藤 また『Tears』なんですけど、あの曲を聞いたとき、映像が浮かんだんですよ 。しかも、ハリウッド映画!吉良さんの曲って、どっちかと言えばフランス映画とか 日本映画が浮かぶじゃないですか。
吉良 わはははは!
加藤 で、ハリウッド映画は初めてだったんで、びっくりしたんですよ。
吉良 あれ、ほんとは香港映画のためにつくったんですけどね、ボツっちゃったんで すけど(笑)。
加藤 そういうふうに、映像を意識してかくことってあるんですか?
吉良 ありますね。「畑仕事をしていて、振り返った向こうにある八ヶ岳」だとか( 笑)。
加藤 吉良さんは、自然派の人なんですよね。なんといっても、虫、好きだし(笑) 。虫の話は菅野と、おいおいしてもらうとして。 吉良さんって、『十二月の午後河 原で僕は夏の風景を思い出していた』で初めて知ったんですけど、それからいろんな 曲を聞いていくうちに、日本的でスリリングなメロディをかく人だなってことがだん だんわかってきて。明るい曲なのにスリリングなんですよ。すごく不思議。
吉良 例えば、CMの仕事なんかの時は、言われるがままに要望にお答えする職人に なるわけですよね、少ないながらも知識を総動員して。でも、ザバダックに関しては 、もっとも単純な回路からスポンと通り抜けてきたものだけを発表してるんです。そ こでいろんなことを考え始めると、さっきおっしゃった欠落感、っていい言葉だなと 思うんですけど、そういうものとか、スリルだとかが減ってっちゃうとおもうんですよ。

加藤 キャラメルが3年目ぐらいの時に、僕が成井に「売れる芝居にしましょう」っ て話をしたことがあるんですよ。5分に1回は「笑い」、15分に1回は「装置の転換 」、または「スペクタクルなシーン」、これを守ってください、って。でも、それを 意識して、いざやってみると、これがまた、つまんなくなっちゃったんですよ!観せ ることばかり考えてて、すごくつまんなくなっちゃって……それから反省しまして。 「成井さん、好きに書いてください。書きたいこと書いてください」って言うように なりまして、それから、ほんと、好きに書くようになりましたね。 吉良 でしょうね。
加藤 僕は、キャラメルボックスと吉良さんというよりも、成井と吉良さんのコンビ ネーションってなんかおもしろそうだな、って思ってて。非常になんか、精神的なウ エーブが似てるんですよ、僕から見て。だから、すごく楽しみ。これから、長い時間 をかけて何本も一緒にやっていくうちに、吉良さんが「日本のロック」を作り上げて きてるみたいに、「日本の演劇」を作り上げていけるんじゃないかなと思ってます。 だって、吉良さんの曲って、どの曲聞いてもシーンが浮かんでくるんですよ。アルバ ム1本で10本は芝居ができそうな(笑)。ほんと、いい音楽に出会うと芝居が1本書 けちゃうんですよ、成井は。
吉良 曲も幸せに感じていることでしょうね。
加藤 でもまだ、『風を継ぐ者』に関しては全然見えてないんですけど……。
吉良 本当ですか(笑)?
加藤 そうなんですよ。あの曲をラストに使おう、とかは当然考えてますけど、新作 の場合、だいたい芝居が固まるのが最後の2週間なんです。で、選曲は1週間前に決 まってればいいほうで、初日の前の日ぐらいに最終決定なんですよ。で、今は聴きま くっている時期で。その後、稽古場でみんなの芝居を見てて「ピキーン」と浮かんで きたものを「これだー!」ってやるんですけどね。そんな状態なんで、初日3日前に なって「あの曲をこんな感じに」なんてことがあるかもしれませんが、その時はよろ しくお願いします(笑)!
吉良 (無言でニヤッと笑ってうなずく)


ZABADAK PROFILE
1986 吉良知彦を中心に、上野洋子、松田克志の3人組でデビュー。
1987 「WATER GARDEN」
「WELCOME TO ZABADAK」(東芝EMI)
松田克志脱退。
1989 「飛行夢(そらとぶゆめ)」(イーストウエストジャパン)
1990 「遠い音楽」(イーストウエストジャパン)
1991 「私は羊」(イーストウエストジャパン)
1992 「十二月の午後河原で僕は夏の風景を思い出していた」(バイオスフィア)
1993 「桜」「decade(ベストアルバム)」(イーストウエストジャパン)
上野洋子脱退、吉良のソロユニットに。
1994 「音」(バイオスフィア)
1995 「賢治の幻燈」(NTT出版)
1996.9.11. ニューアルバム「Something in the air」(ポリスター)発売

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