まっすぐに

 成井豊

野茂投手が今年も大リーグで活躍している。
彼のフォークは、さすがの大リーガーにもそう簡単には打てないらしい。
聞くところによると、今の大リーグには、
縦の変化球を投げる投手があまりいないそうだ。
そこへ、いきなりあんな凄いフォークを投げる投手が現れたら、
大騒ぎになるのは当たり前だったのだ。
日本のプロ野球では、かなり前から縦の変化球が全盛だ。
が、毎年ドラフトで入団する投手たちは、
インタビューで「あなたの決め球は?」と聞かれると、
10人のうち9人までが「まっすぐです」と答える。
まっすぐとはストレート、つまり全力投球ということだ。
自分が力いっぱい投げた球に、バッターがきりきり舞いする。
それが、若い投手たちにとっての夢なのだろう。
彼らはけっしてストレートとは言わない。
まっすぐと言う。
それは球の道筋ではなくて、彼らの意志を示しているのだろう。
30歳を過ぎて、体力が衰えると、自然と球威も落ちてくる。
そうなると、変化球でかわすピッチングをしなければならなくなる。
が、バッターにとって一番打ちにくいのは、やっぱり速い球、
投手が全身全霊を込めて投げた、まっすぐなのだ。
いくつになっても、まっすぐで勝負したい。
それが若い投手たちにとっての本当の夢なのだろう。
それは同時に僕の夢でもある。
僕だって、いくつになっても、まっすぐで勝負したい。
だから、今回の物語も、当然まっすぐだ。
幕末という時代をまっすぐに駆け抜けた、一人の男の物語だ。


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