「もうダメだ」と思っている人のために
成井豊

「もうダメだ」
最近、そんな気持ちになることが少なくなった。
朝、寝坊をしても、必死で言い訳を考えたりはしない。
正直に謝れば許してもらえる、とわかているから。
友人と喧嘩をしても、深刻に悩んだりしない。
時間が経てば元の関係に戻れる、とわかっているから。
しかし、子供の頃はそうではなかった。
毎日毎日、「もうダメだ」「もうおしまいだ」と思っていた。
頭の中は不安と絶望でいっぱいになり、
涙があふれ、胸がギュッと締めつけられ、
「このまま時間が止まってしまえばいい」と願った。
それがたとえ、先生に怒られたとか、
父のゴルフクラブを折ってしまったとか、
今から思えば、「なぜそれぐらいのことで」というようなことで、
僕は生きる勇気を失った。
子供の頃のことを思い出すたびに、僕は子供の僕に話しかける。
「大丈夫。君はちゃんと一人前の大人になれるよ」と。
しかし、僕の声はけっして届かない。
子供の僕はけっして泣きやまない。
だから、僕はこの作品を書いた。
子供の僕のために。
そして、昔「もうダメだ」と思ったことのある人のために。
そして、今「もうダメだ」と思っている人のために。


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