手話を芝居に振りつける

実際にお芝居の中の手話を僕は、「広瀬教授」として振りつけていただきましたよね。あとは「雪絵」と「波多野」なんですが、三者とも生きてきた歴史が違うじゃないですか。それが手話を振りつけるにあたって違いとか、影響とかはあったんでしょうか?
そうですね、手話をつける時には何でもいいってわけにはいかなくて、その人が生まれつき聞こえないのか、両親は聞こえるのか聞こえないのか、ろう学校出身なのか、そうでないのか、または途中で「インテグレート」しているのか。
「インテグレート?」
ろう学校から聴者の学校に移ることです。あと手話に対して自分自身納得しているのか、または拒否反応を持っているのか。ご両親は手話を許容しているか、いないのか。兄弟は聞こえるのか、聞こえないのかとか。バックグラウンドが全部分かったうえで初めて手話がつけられる。あと地方出身とか……手話にも方言があって、みんな違いがあります。でも、皆さん標準語で話していらっしゃいますから、深くは考えずに標準手話でいこうと。
成井との間でそういうやりとりはあったんでしょうか。相談して決めていったとか?
成井さんにはいろいろ伺ったんですが、信じて私にみんな任せてくださいました。稽古場でも演出家ですから、私たちと並んで指導する側に立って芝居を作っていくんだろうと思っていたら、成井さんは常に低い態勢で役者の皆さんと一緒に床に座って、指導される側に立ってくれてたんですよ。それに私は感動しましたねぇ。もう本当に頑張らなきゃって思いました。
手話を振りつける方法は、役者によって違いましたか?
違いましたね。その人の個性を大事にしたいので……。例えば、手話講習会ではテキスト手話といって、テキストに沿った基本形の手話を教えるわけです。きちっとした形を教えて、個人差が出ないようにするんです。でも、芝居でそれをやってしまうと、手話の色が同じになって味が出てこないんです。同じような演技をする役者ばかりの芝居だと面白くないですよね。そうはしたくないので、まずは個々の得意な形、やりやすい形、できる形でやってもらいます。ただ、ろうの役の人に関しては絶対にろう者の手話をやってもらいます。なぜかというとネイティブの味が出なくなってしまうんです。耳が聞こえる役の人の手話は、ある程度音声のセリフで内容を理解してもらえるので甘えられますが、ろうの役の人はそうはいかない。ろうの役の人にはお客さんに「この人、本当は聞こえるのかな。聞こえないのかな」って思わせるぐらいのレベルにまで到達して欲しいです。ですから指導の仕方には違いが出てきます。とにかく役者さんにはその人が持っている持ち味やくせとかそれを生かしたものを振りつけたいと思っています。西川さんはテンポアップなそれでいて飄々とした感じ。手話もタッタタッタ行けるようなリズミカルな表現を生かしたいなと思ってましたね。
再演では明樹由佳さんが雪絵を演じたのですが、確かに僕も明樹さんに対する指導は厳しいなぁと思いましたね。

<・・・戻る
3/4ページ