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加藤昌史コラム「観終わってから読んでください」演劇集団キャラメルボックス 製作総指揮 加藤昌史

なんと、こんなに有名な作品なのに舞台化されるのは今回が世界で初めて、という『時をかける少女』、いかがでしたでしょうか。

 1965年に「中学三年コース」(学習研究社)の1965年11月号で連載が開始され、1967年に単行本が発売された筒井康隆さんの小説『時をかける少女』。1961年生まれの僕は、1972年のNHK少年ドラマシリーズ『タイムトラベラー』で出会い、単行本を何度も読みました。当時はビデオなんてありませんから、小説を読みながらテレビドラマを思い出して「タイムトラベル」という恐ろしくもワクワクするような設定に胸を躍らせていたのでした。
 今回の上演にあたって調べていて知ったのは、もっと小さい頃に見ていた子供向けテレビアニメ『スーパージェッター』の脚本のスタッフに加納一朗さん、眉村卓さん、半村良さん、豊田有恒さんらとともに筒井さんが加わっていた、とのこと。もう、幼少の頃から僕がSFにはまっていく素地はできていた、ということなのでしょうね。その後の僕は様々なSF小説はもちろん、『家族八景』を始めとする筒井さんの作品にどんどんのめり込んで行き、大学に入ってから「SF好き」の成井豊が脚本を書いている学生劇団に入ってそのまま何度となく時を飛ぶ作品を上演して今に至る、というわけです。

 今回の舞台化は、1年ほど前に改訂のポイントやおおまかなストーリーをKADOKAWAさんにお渡しすることで許諾をいただいて実現いたしました。が、台本そのものは大幅に遅れたため、できあがったものを筒井さんご本人がどう思ってくださったのか、ということを確認する間もなく初日が近付いたある日、なんと筒井康隆さんご本人が東京公演初日にご来場になる、という連絡が入りました。なんという幸せ!!……とともに緊張。
 もちろん、成井は原作の一言一言を大切にしてこの脚本を書き上げましたし、筒井さんの世界観もできるだけ理解して、エンターテインメントとしてお客さんに笑って笑ってワクワクドキドキしていただいてうるっとしていただいてスカッとしていただける舞台に仕上げたつもりでした。が、それは僕たちの感性です。勝手な思い込みもあるかもしれません。

 終演後。僕はまず客席の一番前に入って、いつも通り「場内監視」をしながら筒井さんを見つめていました。席を立たれたらすぐにロビーに出なければ、と思っていたからです。が、割れんばかりの拍手をいただいてご挨拶を繰り返す役者達を、先生はじっと見つめ続けていてくださいました。何度も呼んでいただけたアンコールの最後まで、座り続けていてくださいました。
 拍手が止んだ後、僕はロビーで出ていらっしゃるのをお待ちしました。舞台には、最後までお付き合いくださった。でも、怒ってらっしゃるかもしれない……。そう緊張しながらお待ちしていると、目の前にご本人が。

 名刺を出して「どうでしたか?」とご挨拶をしようとすると、「おっ。まずタバコ」と。あっ、そうでした、先生は愛煙家なのでした。そのまま、楽屋へ。待ち構えていた脚本・演出の成井豊。「いかがでしたか?」と尋ねると、まず筒井さんの奥さまが「何度も泣かされました。50年前の作品が、こんなふうに生まれ変わるなんて」とおっしゃってくださいました。そして先生は「まさか、この作品が笑いを取れるものになるとは思ってなかった。主人公の子の台詞の量はものすごいね。よくがんばった。それから、タイムリープのところの表現がすごい。あれは大変だったろう」と、次々と話しかけてくださいました。
 僕は、涙が溢れるのを堪えながら、先生のお話をうかがっていました。そして「先生、こんなに変更してしまったこの作品、やってもよろしいのでしょうか?」と尋ねました。すると「え?舞台は舞台でしょ。いいに決まってるよ」と。

 この公演は、初日に原作者ご本人に確認していただくことができました。これで、胸を張って千秋楽まで時をかけ続けることができますっ!!

 

 そして、劇団史上最年少の主役・木村玲衣。
 高校時代に演劇部で活動した後、「キャラメルボックス俳優教室」で学び、翌年劇団員オーディションに合格して3年目の大抜擢です。「頑張る」という言葉は世の中ではあまり好かれない時代になっているようですが、こんなに頑張った21歳はキャラメルボックスにはかつていなかったのではないかと思います。でも、舞台は観ていないのですが映画の方の『幕が上がる』で主演したももいろクローバーZのリーダー・百田夏菜子さんと同い年、と考えると「若すぎる」とは決して思いません。もっとも、「かなこ」というよりは「中西さん」を演じた「ももか」こと有安杏果さんにイメージはかぶりますが。……脱線しました。
 でも、周りの方々から「木村さん、大丈夫なんですか?」と聞かれるたびに、「同じ歳のももクロのかなこは満席の国立競技場のセンターに立ちましたしね」と答えてきました。僕がももクロを好きな理由は、やはり「頑張る」姿のけなげさと愛くるしさと輝き。背伸びしないで、その時点でできることを最大限にやり、やり遂げ、次に向かっていく姿。木村玲衣は、入団してから今に至るまで、頑張っていない瞬間を僕には見せませんでした。僕がやっているニコニコ生放送に出ているときも、前説の助手で出ているときもまったく隙が無く、見てくださっている皆さんへの感謝の気持ちに溢れていて、「もうダメですぅー」と口に出している時のその瞳にも、「絶対に負けない」という炎が燃えていました。今、初主役の初日を終えても、その姿は変わりません。新しい時代に突入していくキャラメルボックスの不動のセンターに、きっとなっていってくれることでしょう。「あんまりプレッシャーをかけると……」とまた言われるかもしれませんが、大丈夫です。「キャラメルボックス30周年のど真ん中であるサマーツアーの、あの有名な小説『時をかける少女』の世界初舞台化の、2時間出突っ張りの主人公を演じる」というプレッシャーに比べたら、他のことなど何も恐いことではないと思うからです。

31年目に懸けるキャラメルボックスが賭けた木村玲衣が、ここまでやってくれました。さぁ、次は秋の『水平線の歩き方』と『君をおくる』の二本立てと仙台・山形・大垣・豊橋・岡山へのグリーティングシアター、そしてクリスマスの『BREATH』です。『時をかける少女』が原作ものであることと『水平線の歩き方』の再演が挟まることであまり気づかれていませんが、今年後半はなんと三連続新作です。  キャラメルボックスは攻め続けます。是非また劇場に、キャラメルボックスの頑張りに出会いにいらしてくださいっ!!

[2015.7.29. Katoh Masafumi]

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